デジタル放送・音声カットオフ周波数しらべ

本ページの内容は個人的な研究につき、
記述内容の正確性などについて製作者は一切責任を負いません。

最終更新:2012/09/09 加筆修正

2013/11/20:2013 年版 をアップロードしました。

概要

2012 年現在、デジタルTV放送(地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルを含む)の音質は放送局ごとに異なっている。これについて、カットオフ周波数の観点から、自室で受信できる各局の音質について評価を行った。結果として得られたことは次の3点である。(1)フジテレビ以外の無料民放局は一様に音質が悪い。(2)無料放送局に比べて有料放送局は音質が良い傾向にある。(3)カットオフ周波数は (a) 15.0kHz (b) 16.0kHz (c) 20.0kHz (d) なし の4種類に大分される。本調査が、TV放送を録画する際の放送局選択の一助になれば幸いである。


はじめに

2000年代に入って大幅なテレビ放送のシステム改変が始まり、アナログ信号を搬送するテレビ放送も、ほぼその役目を終えました。「地上波デジタル放送」の完全移行からも1年が経とうとしています。

テレビ放送のデジタル化のメリットのひとつとして、放送の高画質化・高音質化が挙げられていましたが、果たしてそれらは本当になされたといえるのでしょうか?ここではノイズ(アナログでの電波搬送時、デジタルでの量子化時およびデータ圧縮時に生じる)については考慮に入れず、情報量について考えることにします。

画質については、その品質を解像度という形で定量化できるので、その比較は簡単です。地上波放送で比較すると、NTSCアナログ放送が有効解像度 640 x 480 pixel/frame 、日本方式デジタル放送が(首都圏では一般的に)1440 x 1080 pixel/frame ですから、これはデジタル化によって高品質になったといって差し支えないでしょう。

一方で音声について考えましょう。映像は解像度で考えたので、音声は帯域について比較してみましょう。アナログ放送は音声はFM放送なので、10-15k 程度の帯域を確保できます(最高周波数 15kHz と法律で定められている)。他方、デジタル放送はというと、アナログな音声を適当な間隔でサンプリングして量子化するわけです。デジタル放送を見ると、サンプリング周波数 48kHz で量子化されています。ゆえに、サンプリング定理より、24kHz 程度の帯域が、理論的には確保できるといえるわけです。

現実的な話をしましょう。一般的な音楽 CD のサンプリング周波数は 44.1kHz ですから、搬送可能な情報量で考えると、CD より テレビのほうが高音質ということになります。でも、たとえば TBS の音楽番組を聴いて、CD と比べてみると、これは明らかにCDのほうが高音質です。おかしいですね。

実は、一部の放送局では、わざわざ音声に LPF をかけた上で圧縮・搬送しているので、帯域の上で考えると、理論的に可能な音質よりはるかに低い音質となっているのです。有り体に言えば、TV局はある周波数(ここでは「実質カットオフ周波数」とよぶことにする)より高い音をごっそり切り捨てて放送しているわけです。(アナログ時代もそうだったかどうかは知りませんし、今となっては知る術がありません。)

まあ、アナログ音声を FM 搬送波に乗せて放送するのであれば、低いカットオフ周波数で放送することは一定の効果があることは分かります。しかしながら、地上アナログ放送を全廃しておいて、一方でこんな低音質化処理をそのままにしておくというのは、何か思惑のようなものが存在するのではと勘ぐってしまいます。

ともかく、デジタル放送では、局ごとに異なる「実質カットオフ周波数」が存在して、音質が損なわれている場合があるということです。そして問題は、その「実質カットオフ周波数」は、解像度のようにスペック・シートに現れるものではないということです。つまり、実際に測ってみるしかないというわけで、やってみたのがこのページです。


測定手法

  1. CATV チューナ(Panasonic TZ-LS300F)でデコードした音声を、S/PIDF(@ 48.0kHz) 接続により測定コンピュータに入力する。
  2. 測定コンピュータ上の自作プログラムにより、同じサンプル周波数でフーリエ変換を行い、音声の「実質カットオフ周波数」を計測する。

測定対象

ロケーション:東京都足立区

1.地上デジタル放送(キー局[7]+U局[4])
2.BSデジタル放送[8]
3.CSデジタル放送(JCN)[N]
4.スカパー!e2 [2]

測定日:2012/07/17


結果

1.地上デジタル放送

チャンネル番号 / チャンネル名 実質カットオフ周波数 [Hz] スペクトラム [range: 0-22kHz]
1 / NHK 総合(東京) 20.0k  
2 / NHK 教育(東京) 20.0k 画像
4 / 日本テレビ(NTV) 15.0k  
5 / テレビ朝日(EX) 15.0k  
6 / TBS(TBS) 15.0k  
7 / テレビ東京(TX) 15.0k  
8 / フジテレビ(CX) 20.0k 画像
9 / TOKYO MX(MX) 15.0k 画像
3 / チバテレビ(CTC) 15.0k  
3 / テレビ埼玉(TVS) 15.0k  
3 / tvk(tvk) 20.0k /
16.0k(*1)
画像
( カーソル位置が 20.0kHz )

(*1) 基本的に16kHz までしか出ないが、音量が大きくなると瞬間的に 20kHz まで出ている。tvk 独特の特徴。
   ちなみに昔(〜2010年10月位)は普通に 20k まで出ていたことを確認している。

見ての通り、おおかたの民放は 15.0kHz で不自然なまでにバッサリ切られています。
サンプリング周波数で換算すると 32kHz サンプリング同等以下、FM音質といい勝負でしょう。

それでも、フジテレビNHK はなんとかちゃんと 20kHz まで出ています。
tvk は独特のスペクトラムの傾向になるが、それでも16kHz までは確実に出ているので、他のU局よりは音質が良く感じられるでしょう。

2.BSデジタル放送

※BSデジタルは通販番組ばかりやっていますが、通販番組は参考にならないので、TV局製作番組で比較しています

チャンネル番号 / チャンネル名 実質カットオフ周波数 [Hz] スペクトラム [range: 0-22kHz]
101 / NHKBS1 15.0k?  
103 / NHKBSプレミアム 20.0k  
141 / BS日テレ 16.5k?  
151 / BS朝日 15.0k  
161 / BS-TBS 15.0k  
171 / BSジャパン 15.0k  
181 / BSフジ 20.0k  
211 / BS11 20.3k 画像
221 / TwellV 20.0k  

地上波系列局をもつ放送局に関しては、地上デジタル同様の酷いありさまです。
BS朝日、BS-TBS などは一日中通販番組で、音もダメ画質もダメでは、存在価値を疑ってしまいます。

一方、最近できた BS11 はしっかり 20kHz まで音が出ているため、高ビットレートの映像と相俟ってたいへん好印象です。

3.CSデジタル放送 (JDS)

チャンネル番号 / チャンネル名 実質カットオフ周波数 [Hz] スペクトラム [range: 0-22kHz]
553 / M-ON! (HD) N/A 画像
( カーソル位置が 21.0kHz )
501 / スペースシャワーTV 20.0k? (*1)

画像
( カーソル位置が 20.0kHz )

552 / MTV (HD) N/A  
751 / フジテレビONE (HD) 16.0k  
659 / MONDO (HD) N/A  
356 / CH-NECO (HD) 20.0k  
357 / ファミリー劇場 (HD) N/A  
753 / TBS-CH (HD) 16.0k  
451 / Kids Station (HD) N/A  
453 / アニマックス (HD) N/A  

(*1) : そもそもの音声ビットレートが低いため、圧縮により高域が削られている
   聴いた感じで言うと、あまり音質は良くない

独立系の(=系列地上波チャンネルをもたない)HDチャンネルは、おおむねカットオフ 20kHz 以上に設定されているようです。
一方、SDチャンネルはそもそもの音声ビットレートが低く設定されているため、エンコードの時点で大部分の高域がカットされています。

4.スカパー!e2

チャンネル番号 / チャンネル名 実質カットオフ周波数 [Hz] 画像 [range: 0-22kHz]
333 / AT-X N/A 画像
335 / キッズステーション 20.0k  
325 / M-ON TV (SD) 16.0k
321 / スペースシャワーTV プラス 16.0k  
223 / チャンネルNECO 16.0k  

AT-X は AAC 320kbps なので抜群に音質が良いです。
他の スカパーe2 チャンネルは、他放送システムよりも低音質で放送されているような印象です。


まとめ

カットオフ種類 15.0kHz 16.0kHz 20.0kHz N/A(>20.0kHz) 特殊:tvk 型
スペクトラム
縦軸:周波数
(リニア 0-22k)
横軸:時間
地上デジタル

NTV[4]
EX[5]
TBS[6]
TX[7]
MX[9]
CTC[3]
TVS[3]

- NHK[1][2]
CX[8]
- TVK[3]
BSデジタル BS-ASAHI[151]
BS-TBS[161]
BS-JAPAN[171]
BS-NTV[141]

NHKBS1[101]
NHKBSP[103]
BS-FUJI[181]
BS11[211]
BS-TwellV[221]

- -

CSデジタル

-

SSTV+ e2[321]
ch-neco e2[223]
CS-FUJI HD[751]
TBS-CH HD[753]

ch-neco HD[356]
SSTV[501]

Kids HD[451]
Animax HD[453]
Famigeki HD[357]
M-ON HD[553]
MTV HD[552]
MONDO HD[659]

-
スカパー! e2 - (多数のSD-ch) Kids HD[335] AT-X[333] -

帯域の面だけ見れば、地上デジタル放送は FMアナログ放送並の音質といえるでしょう。

同じデジタルTV放送でも、放送局によってこれだけのカットオフ周波数の差異が見られます。

特に、地上波放送局、およびその系列局の音質の悪さが読み取れます。
この低音質化処理は意図していないといえるでしょうか?


考察

カットオフ 15kHz というのは、音声信号をFM変調していたアナログTV時代の名残でしょう。
アナログTVが廃止された 2012年 現在でも、技術的問題が解決したにも関わらずこれをそのままにしておくのは疑問に思います。
(まして、「地上デジタルで音質が良くなる」と宣伝していた以上!)

人間の可聴域上限は 約15〜20kHz と言われています。これだけ聞くと、カットオフ周波数 15-16kHz でも充分な気がしてきます。

可聴域の定義はあくまで純音 (sin 波) の話です。たとえば倍音としてそれらの音域に高調波が含まれるような場合
(それは音楽にありがちなパターンである)、人間は差異を感じないままなのでしょうか?

視覚には「超視力」という概念が存在します。単体では峻別できないような小さな刺激でも、他の刺激の中の差異として組み込まれることで
それを判別できるというケースがあるということです。
つまり、単体で感知できないような刺激をも、人間は実際に情報処理に利用しているのです。

スペクトラムでみてわかるように、実質カットオフ15/16kHz と20kHz、カットオフなし(N/A)との差異は顕著であるといえます。
実際に聴いてみても、地上波でありがちな ハイカット15kHz では、どうしても物足りなさ、安っぽさを感じてしまいます。

 


もどる